The Making of "Kubota Engine Discovery"

2022年(令和4年)で100周年を迎えたクボタエンジンの記念コンテンツであり、その歴史を探索し、未来へ向けて新たな課題を追求する「Kubota Engine Discovery」。

この記事では、本サイト制作の舞台裏をご紹介しつつ、一部のコンテンツの解説などもお届けしたいと思います。ご案内するのは本プロジェクトの制作進行を担当したWebディレクターのサンディ(仮名)。

普段は女性向けのWEBサイトやSNSを担当している彼女の目を通じて、クボタエンジンがどのように映ったのか、初めて訪れたエンジンの工場ではどのように 感じたか、そして、アニバーサリーコンテンツ「Kubota Engine Discovery」の制作がどのように行われたのかなどをご紹介いたします。

そもそもエンジンって何?

私は東京の制作会社「ビービーメディア株式会社」でWebディレクターをしている、サンディ(仮名)と申します。

通常はWebサイト制作やSNSなどの進行管理をしています。おもに一般女性をターゲットとする化粧品や食品などのWebサイトを担当し、デザイナーやエンジニアとともに企画や更新を行っています。

この「Kubota Engine Discovery」ではコンテンツ制作の進行管理を担当しています。

私はこれまでエンジンとは無縁の生活を送っていました。
自動車の運転免許は持っていますが、ペーパードライバー。ボンネットなんて開けたことないですし、エンジンといわれてもピンと来ない。今まで興味を持つきっかけもとくにないまま25年を過ごしてきたのに、なぜ、そんな私がこのプロジェクトに参加しているのでしょうか。

私の上司はきちんと説明してくれないのですが、たぶん

「私のように、エンジンに興味のない人にも、楽しんでもらえるようなコンテンツをつくりたいから、いろいろ意見や感想を言ってほしい」

という理由なのではないかと思っています。

そんな私に何ができるか?不安でいっぱいです。そんな想いのなか、2020年末から「Kubota Engine Discovery」のプロジェクトがスタートしました。

このプロジェクトは毎週定例のオンラインミーティングで進めていきました。大阪のクボタエンジン事業部のみなさんと、私たち東京の制作チームでコンテンツのアイデアを出し合い、お互いのタスクやスケジュールを丁寧に確認しながら進めていきました。

Webサイトの制作進行は慣れているのですが、エンジンのことがまったくわからない。クボタのみなさんやうちのスタッフがしている会話では、いままでに聞いたことのない単語ばかりが交わされ、私の頭はパンク寸前でした。

そんな私ですが、ミーティングを重ねるなかで、まず一番初めに驚いたことがあります。

それは、クボタのエンジンは、一般的な自動車の「走るための」エンジンではないということ。

「え?走るためではない?どういうこと?それなら何のためのエンジンなの?」とびっくり。

クボタは自動車ではなく、トラクターや耕うん機、ブルドーザーやフォークリフト、発電機などのエンジンをつくっていたの です。そもそもエンジンっていうものは走るためのものっていうイメージしかありませんでした。

つまり、クボタのエンジンは自動車やバイクのように「走るための」エンジンではなく、「はたらくための」エンジン、ということ。

そして、クボタのエンジンは、クボタのトラクターや耕うん機だけでなく、世界中のさまざまなメーカーに産業機械のエンジンとしても採用されているというところにも驚きました。

それ以来、工事現場や建築現場を通りかかるときに働く産業機械を見かけると、「今日もエンジンがはたらいているな~」と思うようになりました。

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クボタの工場へ初訪問

本サイトでは、クボタエンジンを製造している工場の様子を映像で紹介しています。

Factory

実際にエンジンをつくっている映像を本格的に紹介するのは今回がはじめての試みです。その撮影に私も同行することになりました!

東京から大阪へ、クボタエンジンの工場に向かいます。

仕事とはいえ、ちょっとした旅行気分。新大阪駅のお気に入りの串カツ屋さんは絶対寄りたいし、お土産は551の豚まんにしようー!まだ緊張感のない私は、遠足前の小学生のような気分でした。

撮影当日、最初に伺ったのは恩加島事業センターです。

安全のために長袖長ズボン、ヘルメットを着用すると、その途端に緊張の波がどっと押し寄せました。

構内を案内され、工場の建屋へ。
はじめてのクボタの工場に緊張しつつも高まる期待・・・

いざ建屋に一歩踏み入れると、その瞬間にどっしりとした重い空気が私たちを包みこみました。

そこに広がる景色は、想像をはるかに超えた巨大な空間。

見あげると屋根は高く、ところどころから外の光が差し込むヘリテージ感のある光景は、まるで映画のセットに迷い込んだかのような気分になりました。

工場の中はさまざまな音であふれています。

大きな機械が動く音、鉄と鉄がぶつかるような音、何かを削るような音、製品や部品を運搬する車両の音、ブザーの音、何かが軋む音・・・

スタッフ同士でも会話が成り立たないほど、あらゆる音が強引に飛び込んできて、耳だけでなく身体全体に響いてくるようでした。

圧巻!燃えたぎる高熱の金属!

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薄暗い工場の中を進むと、眩しいオレンジ色の光が際立って見えました。

エンジンの骨格ともいえる重要な部品「クランクケース」をつくるために、鋳造作業の注湯(ちゅうとう)を行っている真っ最中です。

写真は、鋳物原料である高温で溶けた鉄を流し込んでいる様子。まるで火山のマグマのように真っ赤に溶けた鉄が、バチバチと火花を散らしながら流し込まれていくのです。

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まさに圧巻・・・!!!

この真っ赤に溶けた金属からどうやってクランクケースの形が出来上がるの!?
まだこのときは不思議でなりませんでした。

金属を高温で溶かし、クランクケースをかたどった鋳型に高熱のまま流し込み、冷やして固めて取り出す。クボタが創業以来130年以上にわたり培った鋳造技術で、凸凹した超複雑な形状のものでも自在に製造できるのです。

鋳造の基礎知識

鋳造

さまざまな工夫が凝らされた作業空間

次に向かったのは、堺製造所。

この工場では、エンジンの組立を行っています。

クボタのエンジンの組立ラインは、1種類のエンジンを流れ作業で大量に組み立てるのではなく、約2,000種類ものエンジンを同時に流れ作業で組み立てるのだそうです。

工場の組立ラインって、何人もの人がそれぞれ同じ作業を一日中繰り返しているのかと思っていましたが、クボタのエンジンの組立は流れてくるエンジンによって、ひとりひとりの作業の内容が違うのです。

えー、どうして間違えないの?!

目を凝らして観察していると、その理由が分かりました。作業者の前に設置されたモニターに、エンジンごと組立に必要な作業内容が表示され、その作業に必要な部品が指示されています。さらにその部品を組み込むための工具が、自動で作業者の手元に降りてきていたのです。
必要な工具を選ぶのではなく、自動で降りてくることで、作業者は一つ一つの部品を的確に組み付けることができるのだそう。

他にも、堺製造所では「ポカヨケ装置」が約200か所配置されており、作業者が正しい部品、正しい工具しかとれないような仕組みを導入しています。

工場内には、想像以上にさまざまな工夫が凝らされていました。

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組立

クボタの工場を訪問して

最初はちんぷんかんぷんだったエンジンの世界。

クボタの方々からたくさんのことを教えていただき、工場へ訪問し、いまではクボタエンジンのことが大好きです!

「エンジンって何?」と、どうぞ聞いてください。同世代の女子の中で、一番くわしくなったと思います。遠い存在だったエンジンに、こんなにも魅了される日が来るとは思いませんでした・・・。

忘れられないのは、工場で見たプロの方々の仕事に向き合う姿、確実な手捌きと真剣な表情。

完成した映像は「CONCEPT」と「FACTORY」でご覧になれます。

Concept

Factory

私たちが工場で目にした光景を、ぜひぜひ感じてください!

工場と音楽の融合

「CONCEPT」にある映像はもうご覧になりましたか。この映像で流れている音楽は、「Kubota Engine Discovery」のために新たに制作したものです。
この映像作品にはナレーションもセリフもありません。その理由は、世界中の人々に同じようにクボタエンジンの魅力を感じていただくために、なるべく言葉の要素を減らし、「音」が言葉以上に物語るような映像にすることを目指したからです。

この企画当初では、音楽制作チームで、Kubota Engine Discoveryを凝縮するコンセプト映像にはどのような音楽がふさわしいのか議論を重ねました。そして、実際にクボタエンジンが動いているときの音や、工場でエンジンを製造しているときに響く音など、「クボタエンジンにかかわるリアルな現場の音だけで音楽をつくる」ということが決まりました。

そこから曲調、テンポ、録音できた音からどの音を切り取るか、多くの視点で探りながら進めていきました。例えばクラブミュージックやサンバ、クラシック等のさまざまな音楽から、合いそうなものを試していくといったアプローチもありました。

最終的に選ばれたのが、フランス人作曲家モーリス・ラヴェル(1875-1937)による「ボレロ」を土台にした作品です。

「ボレロ」が作曲されたのは1928年。クボタがエンジンをつくりはじめたほぼ同時期に発表された音楽で、ラヴェル自身もクボタの創業者久保田権四郎と同世代の人物です。

ラヴェルは、「管弦楽の魔術師」といわれているそうです。なぜなら、オーケストラを構成する楽器それぞれの特長を活かして魅力を最大限に引き出すことに長け、また精密機械のような、隅々まで計算された音楽を制作したからです。このように生み出されたラヴェルの楽曲と、さまざまな種類のエンジンを同時に生産するクボタエンジンの緻密な工程には、親和性を見出せるような気がします。

もう一度コンセプト映像をご覧になってみてください。今昔のエンジンが動く音、工場内にあふれかえる鋳造や機械加工、組立の音がやがて「ボレロ」の独特なリズムとなり、メロディを奏でていきます。

「余白」のあるデザイン

クボタエンジン100年の足跡を紹介するスペシャルコンテンツとして制作した「Kubota Engine Discovery」。

私たち制作チームは、プロジェクトの最初の段階で、まず、シンボルマークをつくりました。

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このシンボルマークをデザインしたのは、アートディレクター藤井祐一さんです。

みなさんは、このシンボルマークを見て、何を想像しますか?

昔からバイクが趣味で、エンジンを解体したこともあったという藤井さん。

一番最初の着想は、「ピストン」だったそうです。

私は初め、英数字の「100」に見えました。縦にすると漢字の「百」にも見えませんか?それとも他の何かにも見えるかもしれません。

本サイトには、ただ見て知って楽しむだけでなく、コンテンツを通して何かを想ってほしい、発見してほしいという願いを込めています。

「Kubota Engine Discovery」というタイトルをつけたのも、この願いがあるからです。

そこで、シンボルマークも100人が見たら100通りの解釈があっていい。想像力という「余白」を生かし、「何にでも感じる」「何にでもなる」シンボルマークにしたのだそう。

トップページのイラストは、私のお気に入りポイントです。

このイラストは、何かの機械のようにも見えるし、生きもののようにも見えます。

あなたは何に見えますか?