世界に1つだけのサービス
クボタは、エンジンを製造するだけでなく、OEMやエンドユーザーなど「実際にエンジンを使っている方々」に向けたアフターサービスを充実させています。
クボタは、クボタエンジンが産業機械の動力源として搭載された後、そのエンジンを長く安心して使用いただくために、迅速かつ正確な整備や修理、サービス部品の提供といったアフターサービスが非常に重要だと考えています。
クボタのエンジンサービスは、OEM製品に搭載されたクボタエンジンの性能を最大限に発揮・維持し、故障時には迅速に回復させることにより「クボタエンジンを使っていて良かった」と満足いただくことをゴールとしています。
エンジンサービス部は、世界中のクボタ販売会社に対し、サービスのトレーニングを実施しています。
トレーニングを受けた各クボタ販売会社は、実際にエンジン所有者に対してサービスを行うディストリビューターやディーラーをトレーニングし、管轄します。これがクボタエンジンのサービスネットワークとなります。
エンジンサービス部はこのサービスネットワークも運営しており、各地域でクボタエンジンに対するサービスが円滑に行われるよう、サービスの企画やサービス資料の作成、診断ツールの開発、トレーニングプログラムの企画と実施、製品トレーサビリティの構築、サービス拠点の開拓などを行っています。
さらには、最新の技術を用いたサービスの実証実験なども行っています。
クボタがサービスをするエンジンは、お客さまが大切にされている機械の重要なコンポーネントです。
だからこそ、クボタエンジンサービスのサービスビジョンがあります。それは、常にお客さま第一主義と現場主義に徹し、安心、感動を与えられる「世界に1つだけのサービス」を提供し続け、クボタファンの拡大を目指すことです。
クボタのエンジンサービスの歴史
日本では1947年(昭和22年)ごろから農機具自由売買の動きが活発化し、クボタのエンジンも販売体制を見直す必要がありました。
それまでクボタエンジンは杉山商店(クボタ商標の販売)と三菱商事(トバタ商標の販売)が総代理店として販売されていましたが、エンジンの販路を拡大し, 普及を図るためには, 製造から販売・サービスまで一貫して責任を持つクボタ独自の販売体制の確立が必要だとする結論に達し、従来の総代理店制から特約店制に改めることになりました。
同時に、クボタ自身がサービスネットワークを構築し、エンドユーザーに対するエンジンの使い方や整備、メンテナンス方法の教育を行うことが必要となりました。
1948年(昭和23年)にクボタは独自の販売体制へ変更しました。
サービスや教育面についても、1949年(昭和24年)に技術講習所を開設、技術講習を始めました。
1952年(昭和27年)には講習に参加する修理エンジニアのために宿泊設備を設け、講習内容を充実させました。続いて1957年(昭和32年)に海外からの研修生のための海外会館も建設しました。
クボタのエンジンサービスは、エンジンの正しい使用法・メンテナンスについてクボタのユーザーやディーラーへ伝えるという重要な役割を担うために立ち上がり、時代の変遷に対応しながらトレーニング内容や規模を拡充し、今日に至っています。
きめ細かなトレーニングを目指す
クボタでは、クボタと販売会社、ディストリビューター、ディーラーで構成されるKESN(Kubota Engine Service Network)というネットワークを組織化しており、その各拠点から、サービスを提供しています。
エンジンサービス部は販売会社のトレーナーを育成し、そのトレーナーがディストリビューター、ディーラーの修理エンジニアに対してトレーニングを行っています。
このトレーニングによって、修理エンジニアはOEM先のメーカーやエンドユーザーに、適切な整備や修理を行うことが可能となります。
トレーニングは、定期研修に加え、新製品のエンジンが市場に投入されるときに 実施されます。
新製品のエンジンが市場に投入されるとき、エンジンサービス部ではエンジン技術部と連携し、トレーニングプログラムの企画、トレーニング資料の作成を行い、販売計画に沿って、その販売地域のKESNを管轄する販売会社のトレーナーにトレーニングを実施します。
トレーニングは、 クボタおよび販売会社の研修施設で行われます。
その内容はエンジンの分解・組立から、故障診断にまで至ります。
数日間かけて実際のエンジンを触りながら対面で行うトレーニングにより、エンジンに対する理解を深めることができるため、質の高いサービスへとつながっていきます。
オンライントレーニング、eラーニング、動画などの活用
クボタエンジンは、豊富なエンジンラインナップが一つの大きな特徴です。細かい排気量帯設定や燃料の違いによって、たくさんのエンジンのバリエーションがあります。エンジンサービス部は、それぞれのエンジンに対応したトレーニングプログラムを準備しています。
クボタエンジンに共通する基本的な内容はじっくりとトレーニングを行う一方、エンジンバリエーションごとに違う項目については、効率的に理解してもらえるようにトレーニングプログラムを設計しています。
世界中で利用できる「e-ラーニングシステム」「動画コンテンツ」や、実際にエンジンを動かして診断できる「トレーニングベンチ」も導入しており、トレーニングの品質向上にも努めています。
さらに、インターネットを活用した「オンライントレーニング」も拡充しており、遠隔地の拠点との教育体制の強化を図っています。
また、修理エンジニア育成も必要と考え、初めてエンジンに触るような初心者に向けたトレーニングも行っています。
クボタエンジンにさまざまなバリエーションがあることに対応し、サービスもさまざまな取り組みを通じて、お客さま一人ひとりの満足度を高め、「世界で1つだけのサービス」を追求しています。
一人ひとりのお客さまのエンジン情報を集積「Kubota Engine Park」(KEP)
Kubota Engine Park(KEP、旧K-iSS)とは、クボタエンジンに関する技術、部品、サービス、メンテナンスなどの各種情報を検索できるクボタのパートナー向けウェブサイトです。
「1台ごとのエンジンの情報」が巨大なデータベースに集積しており、販売会社、ディストリビューター、ディーラーの修理エンジニアが、インターネットを通じて閲覧できます。
クボタは製造・出荷・市場サービスという製品ライフサイクルの中でトレーサビリティを重視し、エンジン機番(製造時に1台毎に採番される)を「鍵」として製品の履歴を管理しています。
たとえば、故障や異常の問い合わせがあった場合、修理エンジニアはそのエンジンに記された機番を検索することで、そのエンジンに関する様々な情報を閲覧できます。
KEPでは、そのエンジンに対応する修理マニュアル、診断マニュアル、部品表などが表示されます。もちろん、マニュアルは多言語で用意されています。これらによって、エンドユーザーからの問い合わせに対して、そのエンジンの情報を迅速に取得できるため、即座に対応することが可能となります。
さらに、電子制御のエンジンでは、サービス履歴を管理しなくてはならない部品があります。
エンジンに装着されているECU(Engine Control Unit:エンジンの制御を行う装置)も機番管理されており、そのECUに書かれているソフトウェアのバージョンなどの情報も閲覧でき、サービス履歴も表示されます。
コモンレールエンジンのインジェクタは、各気筒で補正値を持っています。その補正値がECUの中に正しく記録されてないと排出ガス性能を担保できないため、製造時に設定したデータと、市場で交換したときのインジェクタの補正値の情報を記録しています。
つまりKEPは、一人ひとりのお客さまの産業機械に搭載されているエンジンのすべての技術サービス情報とサービス履歴を蓄積し、常に見守っているといえるでしょう。
いま、世界中で稼働しているクボタエンジンについては、ここに情報が集積されており、今この瞬間もその情報が進化しています。
エンジンの健康状態を診断する「Diag Master」
エンジンサービス部は、クボタエンジンの診断ソフトウェアも開発しています。2000年代後半のコモンレールエンジン導入に際しては、PCでエンジンの故障診断を行うための診断ソフトウェア「Diag Master」(ダイアグマスター)を導入しました。
これは、Diag MasterをインストールしたPCをECUに接続し、電子制御のエンジンが発している「出力」「回転数」などのデジタル信号を取得、Diag Masterの画面にその状況を表示します。
故障や異常を検知した場合は「故障コード」を表示し、そのトラブルシューティングに迅速に対応できます。
また、コモンレールエンジンだけではなく、ガソリンエンジン用の診断ソフトウェアであるKGST(クボタガソリンサービスツール)も開発、導入しています。
これら診断ソフトウェアにより、現地で修理エンジニアがエンジンを直接診断し、KEPで診断マニュアルを閲覧することで、適切な対応が可能となります。
エンドユーザーがスマホでメンテナンス情報を管理できる「Kubota Engine Owner’s App」
エンジンサービス部では、エンドユーザーとのエンゲージメント強化のために「Kubota Engine Owner’s App」というアプリを公開し、製品登録を行ってもらったユーザーに対して、定期メンテナンスに関する情報提供やディーラーの紹介などを行っています。
エンドユーザーは、スマホを使って「Kubota Engine Owner’s App」に自身が所有するエンジンの機番を入力する事で製品登録を行えます。製品登録を行うと、KEPのデータベースと連動しており、そのエンジンの取扱説明書が閲覧でき、フィルター、オイル交換などの定期メンテナンス情報が確認できます。
また、ディーラーロケーターで最寄りのKESNを探すこともできます。
エンジンサービス部にとっては、実際に稼働しているエンジンの台数分布情報を得ることができるため、将来的にサービス拠点をどこに設置するべきかなど、サービスの品質向上の検討を行うことができます。
アプリはさらに機能を強化していく予定です。ユーザビリティや情報の有用性を上げ、多彩なユーザーのニーズを把握し、それを踏まえてさらにきめ細かいサービスを展開したいと考えています。
仮想空間(VR)で学び、拡張現実(AR)で操作する次世代サービスの研究
エンジンサービス部では、「KEP」「Diag Master」「Kubota Engine Owner’s App」など、インターネットやPC、スマホを活用したエンジン情報の閲覧、共有といったサービス支援システムを導入していますが、将来に向けてさらに新しい技術の導入を予定しています。
それは、VRやARを活用したサービス品質の向上です。
エンジンサービス部では、VRとARを活用し、「そこにないもの」「見えないもの」の可視化を研究しています。
VRは、エンジン新機種のトレーニングに活用します。
VRとは、「Virtual Reality(仮想現実)」の略称で、専用のゴーグルを装着し、人間の視界を覆うように360°の映像を映すことで、実際にその空間にいるような感覚や、実際に目の前にないものを映し出したり、操作できたりする感覚を得られる技術です。
エンジンサービス部では、エンジンの吸排気の流れ、電気の流れなど、見えないものの可視化を研究しています。
たとえば、近年は3Dモデルを使って製品開発を行っているので、その3Dモデルデータを使用活用しトレーニング用コンテンツを作る事で、専用ゴーグルを装着した修理エンジニアがエンジンのことを学んだり、分解のシミュレーションを行ったりすることも可能となります。
VRが一般的に使用できるようになると、遠隔地の修理エンジニアが長距離を移動してトレーニングに参加する必要も減るでしょうし、新製品の市場投入前に、スピーディーにトレーニングを完了させることも可能です。
ARは、実物のエンジンの作業に対する支援機能として活用します。
ARとは、「Augmented Reality(拡張現実)」の略称です。実際の風景や物体にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を仮想的に拡張するというものです。
エンジンサービス部が研究しているAR技術は、修理エンジニアが専用のARウェアラブルデバイスを装着すると、目の前のエンジンに故障や保守に対する必要な情報が投影されるものです。
たとえば、エンジンの電源供給を行う配線であるハーネスを装着する作業を行う場合、実物のエンジンの上にハーネスの正しい装着位置を表示させます。
ハーネスの装着は非常に複雑で、一度外してまた装着するとなると、熟練した作業者でも装着間違いがないか細心の注意を払う必要があります。
現状の作業では、作業者はマニュアルや画像などを見ながら装着するのですが、その都度作業を止めなくてはなりません。
しかし、AR技術を使えば、エンジンに沿って表示されるガイドをみながら順番に作業していけば良いので、作業から手を離すことなく、正確に素早く装着することができます。
これが実用化できれば、エンジンのあちこちに取り付けられているボルトの締め付けトルク管理のような、特に注意を払う作業へも同様に展開できるようになります。資料を確認しながら行う作業については格段に作業効率や正確性が向上します。
このVRおよびARの技術の本格導入にはまだ乗り越えなくてはならないいくつかのハードルがありますが、クボタのエンジン事業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の一環として、またエンジンサービスの飛躍的な向上に向けて、積極的に取り組んでいます。
クボタエンジンを長く使い続けていただくために、エンジンサービス部は、これまでに培ったトレーニングのノウハウの蓄積と、その知見に裏付けられたテクノロジーを活用し、お客さまにとって安心いただけるサービスの品質向上に向けて、さらに新しい取り組みを推進させていくことでしょう。